『暗黒の魔界に咲きほこる戦りつの異端大劇画!』
                『週間少年チャンピオン』キャメル連載開始号の表紙より



第1回 『キャメル』扉絵


 私が今まで読んだ漫画の中で、絵・ストーリー共に強烈な印象を残し、是非とも続きが読みたい漫画がある。
それが宮谷一彦の作品『キャメル』である。

 初出は『週間少年チャンピオン』1975年14号から21号迄であるが、残念ながらたった8回で打ち切られてしまった。
私がこの作品を知ったのは小学校1年(1976年)の時、たまたま入手した1年前の『週間少年チャンピオン』20号で、その時のラストシーンが強烈に印象に残って以来、片時も『キャメル』を忘れた事が無かった。
当時、連載漫画の全てが単行本化されると思っていたから、いつか『キャメル』も『少年チャンピオンコミックス』として、単行本化されるだろうとその日をずっと楽しみに待っていた。

 ところが一向に待っても単行本化される気配が無いうえ、その貴重な掲載誌もいつの間にやら親に捨てられてしまった。
こうして『キャメル』と言う作品は、私に強烈な印象を与えつつも、一体誰の作品によるものか、どういうストーリーだったのか全て謎のまま約10年間の歳月が流れていくのであった。

 その後、高校1年生の時、ある古書即売会で『週間少年チャンピオン』が何十冊も売りに出されているのを発見。
もしやと思い探して見ると・・・『あった!』心がときめく。懐かしの『週間少年チャンピオン』1975年20号との再会であった。
すぐさま、『キャメル』掲載号全て探して購入。『たったの8冊?』と不安を感じつつも、ワクワクしながら家に持ち帰り早速読んでみた。

 ストーリーについては、以下の通り。

 長野県のはずれ、広大な国有林のまん中にある施設・<(財)滝沢脳神経研究所>では、過去に脳外科医の天才と言われた狂人、滝沢博士と日本政府のある大臣とで、密かに恐るべき人体実験が行われていた。
それは、人間の脳が命令を出す時に電気を発する事から、その領域へ逆に電流を流し人間を思いのまま操ろうという実験であった。
 その実験のモルモット代わりに犯罪者が送られてくるのだが、その中に不幸な過去を持つ少年<寺切拝人>がいた。
彼の年齢は16歳、中学卒業後に都会の牛乳配達店へ住み込みで働いていた。人手が足らず困っていた店主のすすめにより、無免許運転で牛乳配達ををしている途中、事故で人を殺してしまい警察に捕らわれてしまう。ところが自分をかばってくれると思っていた店主は、責任逃れで勝手に少年が車を運転したと証言してしまう。怒った少年は鑑別所を脱走し、店主一家を皆殺しにしてしまうという暗い過去を持っていた・・・。

 少年は滝沢博士の下で異常な実験が続けられていたが、ある日突然襲った落雷により研究所が停電、発電機が故障した事で、囚人たちが脱走や反乱を起こす。脱走しようとする少年を引きとめようとした滝沢博士は、逆に訓練された施設の番犬に襲われて命を落としてしまう。
少年は愛犬エルザと共に山中へと消えるが、彼の後に追っ手の一隊がせまっていた。

 一方、大臣の外遊中に起こった滝沢博士の死で、慌てふためいた大臣の秘書・道家正太郎は、滝沢博士の部屋で偶然にも博士の遺書を発見する。滝沢博士の遺書とは、自分が生き続けて研究したいが為に、自分の脳を取り出して保存してくれという内容であり、道家正太郎はこれを実行。世界的な武器商人であるマキャべリ・ブラグマチストと手を組み、滝沢博士の大発明の技術と脳を盗み出し、世界征服を企む。

  山中に隠れた拝人少年は、辿り着いた山小屋で同じく追われる身である架印松平と知り合う。友情が芽生えたかと思われたが、食料調達に出かけた別荘地K町で、ガードマンに暴力を振るう松平を目撃した瞬間、拝人少年は殺人鬼・寺切拝人と化し、松平をナイフで惨殺してしまう。

忘れられない衝撃のシーン>

  やがて正気に戻った拝人少年は、自分が松平を殺した事実に驚愕する。彼の脳裏には、牛乳配達店主一家を惨殺した時の記憶が鮮明によみがえっていた。

  ちょうどその頃、殺人現場より4キロ程離れた所にある湯田財閥社長の別荘では、姉に会う為に来た湯田財閥の跡取息子・湯田正人が、偶然にも松平の死体を馬に乗せて隠し運ぶ拝人少年とすれ違い、暗い運命の出会いをしてしまう。
この時は知る由も無いが、数年後お互い命をかけて対決する相手だとは知らず・・・。
                                 

  湯田正人が別荘に来た目的は、自分達の父の経営する会社や工場の生み出す公害により、自然破壊や多くの人の命が脅かされている現状を姉に説明し、自分達が今の生活を捨てて生活をしていく事で、父に考え直してもらおうという考えであった。しかし姉は今の生活を捨てる事を拒否、湯田正人は正しく生きていく為、一人家を出る決意をした。

  自殺を決意した拝人少年は、松平の死体を山頂にある火口に葬ると、自らもそれに続こうとする。しかし寸前で愛犬エルザが身を呈して彼を思いとどまらせた。

 時は流れて3年後、K町では赤軍と名乗る過激派が山荘に立てこもり銃撃戦をしたというニュースが流れ、拝人少年と湯田正人はそれぞれの場所でK町の事を思い出していた。
丁度その頃、道家正太郎はマキャべりの所有する島で、世界征服の為、新研究所を建設中であった・・・。(第1部終わり)

 最終回を見た時、正直『なんじゃ、こりゃ』って感じだった。衝撃を受けた20号のラストシーンで今後の展開が楽しみだったのに、いきなり次の週で終わってるとは・・・。暫く信じられず呆然となった事を今でも記憶している。
 
 恐らく、リアルすぎる絵とストーリー<劇画>が、当時の他の連載マンガと比較してあまりにも差がありすぎたのと、過激なテーマ(ロボトミー手術による人格改造)が原因で短命に終わったのではないかと思われる。
 扉絵には最終回と記されていながら、ラストページには(第1部終わり)と書かれてあり、調べてみたが、その後第2部が始まった形跡も無く、無残な打ち切られ方で『キャメル』は完全に闇に葬られた形になってしまった。

  私は、『キャメル』という作品は現在なら、読者に受け入れられたのではないかと思うと、残念で他ならない。
 世に出たのが早すぎた作品であったかもしれない・・・。


                  


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